「そーいえばね、なんか、また変わったらしいよ、剣技担当の先生」
グレンが唐突にそう言った。
午後。
剣技・・・というか、武術の授業の為、広場に向かっている時だ。
「え? またか?」
とは言っているものの、あまりキリスは驚いていない様子。
「うん・・・なんか、またブロクのせいでね。前の先生、辞めちゃったんだって」
「へ〜・・・」
ブロクというのは・・・まぁ・・・なんというか。
言うなれば番長かガキ大将のような男子だ。死語ではあるが。
十三歳。そういえばキリスやサラと同い年だったな――ちなみにグレンは十一歳なのだが――と、キリスはふと思った。
ブロクは強い。
ただ、授業にはほとんど参加しないので、成績はキリスより悪かった。
「ブロク・・・前の剣技の先生、またボコボコにしちゃったらしいんだ」




         ●○●○●




広場につくと、その新担当の先生が来た。
「――よろしく」
名前と、その一言だけを告げ、新しい教師とやらは自分の剣に右手で触れた。
このあたりでは見かけない、黒髪の黒い瞳。
「・・・へぇ」
珍しく授業に参加していたブロクと――何故か、キリスは声をそろえた。
「よっし。じゃ早速っ、腕試しといこーぁ!!」
ふいにブロクが立ち上がり、その教師へと向かっていく。
手には、鞘から抜かれたロングソードが握られている。

「・・・まぁた・・・相変わらず好戦的だこと〜・・・」
グレンは欠伸をしながら、それをぼけーっ見ていた。
いままでの先生のように、負けるとしても、可哀想だから大怪我にならない程だといいななどと考えて。

ブロクが剣を一閃する。
「――何っ!?」
剣は、その教師の二本の指で止められた。




         ●○●○●




「うっそ・・・・・・」
グレンが目を見開く。
「あーらら・・・」
キリスは、教師にねじ伏せられたブロクの驚愕と屈辱の表情を、にやにやしながら楽しんでいた。

「弱いな・・・・・・出席番号27番 ブロク・ラポウル。
お前は基礎からやり直せ。動きにバラつきがある」
片手で名簿を見ながら、教師はブロクに言い放った。


「大丈夫かな、ブロクくん・・・」
サラはにこにこ微笑を浮かべそう言った。とても心配しているようには見えない。

キリスは教師を見て、こう、ポツリとつぶやいた。
「あいつ、強ぇーなぁ・・・」


ナチュラル・ソリュード


そう名乗る、新任の剣技教師に、表情という表情は見当たらなかった。




「風系の魔法の名前と、なんか似てるよねっ!」
サラがこう述べた。・・・音風魔術『ソリチュード』、の事だろうか。
グレンは、
「でもっ、むっちゃくちゃ強かったよね! あの先生! え〜と・・・・・・ソリチュード先生?」
「・・・ソリュードだろ・・・?」
キリスが突っ込むと、そうだっけ? と首をかしげるグレン。サラの影響だろうか?

やんややんやと騒いでいる弟・グレンと、幼馴染・サラを横目に、キリスはため息をついた。
「・・・あ、もうそろそろだな、俺の番っ」
剣を握ってくるりと振り向くと、新しい教師――ナチュラルの、剣を振るう姿が見えた。




         ●○●○●




武器は人それぞれ。
キリスは剣だし、グレンは槍。サラはナックルだ。
扱い方は授業では殆どやらない。授業で習うのは、戦闘に必要な知識と技だ。
今日は、新任ということもあって、生徒の実力チェックを行っている。
ナチュラルは一人一人、生徒の相手をしていっている。
もともとクラス人数が28人で、少ない。この一時間で全員終わるだろうとキリスは見当をつけていた。
自分の番以外、練習のはずだったが・・・

「キリス・サイスルド、次はお前だ」
「うっしゃ来たぁっ!!」
呼ばれるとほぼ同時に勢いよく立ちあがる。
「がんばってね、キリスくん」
「兄ちゃんの唯一の特技だもんね〜」
「唯一言うな悲しくなるからっ!! ・・・んじゃ行ってくる!」
グレン達に言うと、ナチュラルと対峙する。

「剣は?」
ナチュラル先生が、キリスに問う。
「二刀流で」
右手に長剣、左手に短剣。掲げて見せた。
「・・・わかった。
グレン・サイスルド。この次だぞ、準備をして待つように」
それだけ言うと、キリスの方を向いた。


「よっし、行くぞっ! 赤華刃っ!」
先手必勝。
いきなり必殺技を繰り出す。無論これは牽制。
相手が気を取られている隙に、もう片方の短剣で攻撃。これが先ほど考えた作戦だ。
もう片方、短剣を突き出す。
「へへへっ、こっちだ!」

だが――・・・・・・

「攻撃をする前に自分で教えるのか?」
「なっ・・・・・・!?」
いとも簡単に受け流し、短剣を掠め取り、言う。
・・・ごもっとも。
だが、普通なら教えたところでキリスの剣を防げるものはいないのだ。

カン、と。

残った長剣も、弾き飛ばされてしまった。