「な・・・・・・」
『はいっ、キリスの負け〜〜っ☆』
横で見ていたグレンとサラが、にこにこ笑顔でそう言った。
「――・・・次。グレン・サイスルド」
教師ソリュードの声は落ち着いていた。




         ●○●○●




「っうあーーー。納得いかねぇーーーーーーーーっ!!」
キリスが、6回目のその台詞を口にしたのは、放課後のこと。
「・・・はぁ・・・
兄ちゃん、まだソリュード先生の事認めてないの。いーかげん割り切りなよ。先生のほうが強いって。」
グレンは、もうそれは聞き飽きたとばかりにそう言った。
「うぁーーーーーーーーーーっっ!! なっっっとくいかねぇーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「キリスくん七回目〜」
「・・・兄ちゃん、あのねぇ・・・」
だいたい、今日は調子が悪すぎる。いつものテンポで思うように事が進まない・・・
「俺は・・・俺は・・・・・・・・・」
机に突っ伏して、キリスが唸る。黒いもやでも放出しそうな勢いだ。
こりゃあもう、今日復活は無理かな? グレンがそう思い始めた頃。
「あ、あのね、その・・・キリスくん?」
サラがおずおずと、口を開いた。
「・・・んー・・・?」
現在進行形で死んでいるキリスがぬぅっと顔を上げる。
それに微笑しながら、
「あのね・・・お願いがあるんだ」




         ●○●○●




深い森。
ここはリーフの森といって、ハーフエルフのリーフ族が昔から守ってきた「リーフスツリー」という魔法樹がある。
「リーフ」というのは魔法樹の葉の事。使用時特殊な効果を発揮するアイテムで、種類は色、効果共に様々だ。
使う者により効果の差は表れ、魔力の強いものが使えば効果は増す。冒険者には必須のアイテムだが、魔法樹はそうそう生えているものではない。
都や街では高値で取引されている為、各地のリーフ族は密猟者達からリーフスツリーを守っている。
中にはそれを使って町興しをしようと考えた者達もいたが、実行と共に何故か魔法樹が枯れ、そこへは一切生えてこなかった。
そして、“ホワイトリーフ”と言う回復の効果を発揮する白い葉をつけるリーフスツリー。生えるのはここ、スオール村。
村から南の方の森には神殿があり、そこに祀られているのは終わりと再生を司る精霊だ。
その神殿を目指して、進む――・・・・・・
キリスたちであった。
「ねぇ兄ちゃん・・・やっぱやめない・・・?」
夕暮れ時。夕日のオレンジも届かず薄暗い森の中、今にも泣きそうな声で、グレンが言う。
カンテラを持つキリスの服の右端をぎゅっと掴んで、周りを見ないようにしてついて行っている。
サラはキリスの左。どことなく、楽しそうな表情をして、武器のナックルの表面を指でなぞりながら歩いている。
「ごめんね、グレンくん。来てくれなくてもよかったのに・・・」
キリスにはサラのこの言葉は“グレンお前邪魔だ”と聞こえて仕方がないのだが、自分の勝手な思い込みだろうと片付ける。
グレンは、
「うっううん! 僕は大丈夫だよ! サラちゃんが心配だから・・・!」
強がって、しかしキリスの服の端は離さずに見栄を張った。
「ほんとかよ・・・・・・」
キリスは口の中で独りごちる。ここまで来ていまさら一人で帰るのも怖くてならないからついて来ているような・・・
兄としての勘だった。何故か、こういったことに関しては良く当たる。今回もまたきっと的中しているだろう。
・・・と、そこで。
「ねぇ、兄ちゃん・・・・・・僕の肩叩いた?」
ほとんど涙声で、グレンがそう尋ねてきた。
そんな器用なことできるわけがない。グレンはキリスの斜め後ろをあるいており、グレンに気づかれずに肩を叩くなんて芸当は無理に等しかった。
「い〜や。低級モンスターのゴーストか何かだろ、気にすんな」
元気付けてやったつもりなのだが、グレンはますます顔を青くしていた。
「ねぇキリスくん、グレンくん・・・ゴーストって、私見たことないんだけど・・・たとえばこういうの?」
サラがつついてくる・・・・・たとえば?
キリスがサラに目を向けると、サラは手に装備したナックルで何やら青白く光るものを串刺しにしていた。
その、光るものの目らしき部分が、ぎろりと恨めしげに・・・・・・
「ッッに゛ゃ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
途端グレンは絶叫し、一人森の奥へ突っ走っていってしまった。

「・・・・・・泣いてたな」
「うん、泣いてたねぇ」
「追いかけよーか・・・」
「うん・・・大丈夫かな、グレンくん」
二人は苦笑して、 グレンの後を追うのだった。
もちろん、サラのナックルに串刺しにしていたゴーストは、その場で引き抜き放り投げ。

・・・・・・それにしても、女の子の度胸ってすごい。
キリスは《将来、嫁は欲しくない》という気持ちを一層、強くしたのだった。




         ●○●○●




サラの”お願い”というのは、つい先日。
サラがなんとなしに窓から外を眺めていると、リーフの森――南の方角――に何か光が見えたというのだ。
どうしても気になるから見にいきたい、といったサラの頼みに、またもグレンが安請け合いし、今に至る。
今日は休日で、学校は休みだから良いのだけれど。



やっとのことでグレンに追いついたキリスとサラ。グレンは、森の奥にあるという『神殿』で、やはり心細くなったのか二人が追いつくのを待っていた。
「ここが・・・・・・神殿ってヤツか?」
キリスがぽそりと呟く。聞き取れたのか、律儀にサラが返してきた。
「そうみたいだね・・・」
入っていこうとするサラの手を掴んだのは、グレンだった。
「ねぇ、は、入る、の・・・?」
「うん。ここまで来て、光の正体がわからなかったんだもん・・・きっとここからだったんだよ」
平然と答えるサラに、グレンはまたも顔を蒼白にさせて。
「よ、よしなよ・・・ほら、村長さんも入っちゃ駄目って言ってたじゃん・・・」
「うん・・・そうなんだけど、やっぱり気になって・・・」
それでもなお入ろうとするサラ、その手を放そうとしないグレン。
キリスは、二人をつなげる手を掴んで、無理やり放させた。
「兄ちゃ・・・」
「ここで押し問答なんて意味ねーだろ馬鹿。まぁ何にしろ・・・・・・サラ」
サラの方を向くと、サラが「なぁに?」と首をかしげた。
「こっから先は多分、危険だぞ・・・・・・いいのか?」

何があるかは判らない・・・何も無いのが一番なのだが、先程サラが倒したゴーストの形状が”警告”を意味する形状――自衛の教科書に書いてあったのである――だった。

昼休みの時間延長がかかっていた為、無理やり脳にねじ込んだ知識がこんなところで役に立つとは思ってもいなかったが。
「ゴーストは力も弱い低級モンスターだが、見る者の未来を予言するヤツらもいる」
「あ、さっきのゴーストさん、予言ゴーストだったねぇ」
のほほんと、サラが言う。成績はいいはずなのに、どうしてこう、いざとなったら活用できないのだろう?
「つまりだ。危ねぇって事だろ――いいか? サラが行くってんなら、俺はついていくよ。でも、何があっても守ってやるとか言えねぇからな」
言うとサラは嬉しそうに、うん、と微笑んだ。

「キリスくん、心配してくれてるんだよね? ありがとう・・・
でも私、行きたいな」
「・・・別に、心配してるわけじゃねーけど」
何を、こんなに真剣になって話しているのだろう・・・
(キャラじゃねー・・・)
そう思いながら、キリスは気恥ずかしくなってそっぽを向いた。